Diary of Kamitsuki Rainy

視力が悪くなったのはいつ頃からだったでしょうか。

気が付けば眼鏡になっていました。
しかし煩わしいのがイヤで、眼鏡、ほとんどつけません。意地で裸眼生活です。裸族です。


日常はほとんど見えてません。

数十メートル先から「おーい」と手を振られても、僕にはシルエットしかわかりません。彼が目上の者なのか目下の者なのか、何を思って手を振っているのか、そもそも僕に向かって手を振っているのか。
だから当たり障りない会釈を返します。


今までそれでいいと思ってた。
だってこの世の中、目ん玉ひん剥いても見えないものは見えないじゃ、なーい?

とそんな厭世的叙情に浸っていた昨日までの自分に売買。


華々しくあれ! コンタクトデビューです!


しかしそれは過酷な道でした。

今までコンタクトを避けてきたのは、言うまでもなく怖かったから。


最初の検査の、風がポシュ、っと目にかかるやつでさえ、まばたきしすぎてエラー連発。
「じゃあもういいよ」って先生、それでいいの……?

アゴを固定され、目をがっつり開かれ、尖った先端の光るライトみたいなの突きつけられたときには
すでに後悔しておりました。だってさ。徐々に近づいてくるんですぜ、光る先端。
「コンタクトはこんなもんじゃないよおう」と、逃げる僕の頭を掴む先生、失笑。何この人、怖い。

「その先端、もしかして眼球に触れるんですか?」
「ちょっとね」

さわんないで!



小さな頃から、目は触っちゃいけないと教わり育ってきました。

レンズを入れるなんて信じられない。


検査のあと、店員さんと一対一でコンタクトレンズの入れ方を教わりました。

「入らないって! そんな大きいの入りませんって! 無理ー!」と騒ぐ僕の隣にす、と座った女子高生が、ぺぺっ、と装着して去っていきます。

思わず「ビッチめ」と舌打ちしそうになる劣等感。

帰りたい。
でも帰れない。

数十分かけて入れて装着。
目って、こんなに……柔らかかったんだ……と感慨にふける間もなく取り外し開始。

さらに三十分以上を必要としました。


「眼球を摘む感じで」ってさ。
何を言っているんだこの男。正気の沙汰とは思えない。


自らの眼球を摘むという非日常的行為を、
日常のサイクルとしてこなしているコンタクトレンズ愛好家に敬意を表します。

「こうです、こんな感じです」と懸命にあっかんべえしている店員さんを遠い目で見ておりました。
……届かないよ、その領域。


「一回、爪切りましょう」と爪切られ、
「一服していいですか」と煙草休憩。


「どうしてコンタクトレンズをつけようと?」
「授賞式があるんです」
「それはそれは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「眼鏡は……イヤなんですか?」
「……そう、思ってたんですけどねえ。もう眼鏡でもいいかなって(涙)」
「頑張りましょう」

何この人、いい人。


鏡見ながら指先に集中している表情とは変顔そのもで、口を半開きに鼻下を伸ばす僕の、鏡面に映る肩越しに店員さんも同じ顔をしていました。

何この人、めっちゃいい人。


何とか取れたときには、泣いて喜びました。ありがとう! 店員さん! お世話になりましたー!
単に目が傷ついていただけかも知れませんが。



ただ、店員さんには申し訳ないけど、もう二度とつけたくありません。

だって
だって、いくら目ん玉ひん剥いても、見えねえものは見えねえんだけどなー、って。

たけしが。さ。言ってたし。さ。


【YouTube】Zatoichi ending







>桜なつさん
すみません、拍手コメどこで返せばいいのか分からずここへ……。
パスは必要ありませんよー。
平仮名やらカタカナで書かれた数字を打ち込めばいいのですヽ(`ゝ`

 

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