大地に立つ。

おや、こんな所に小さなコオロギ。
どうしたんだい迷子かい……?

と思ったらごきぶりでした!

となれば容赦はしねえよ。
貴様その足が踏みつけてる卒業証書が誰の物だかわかってんだろーなこの野郎!
殺す、絶対殺してやるお願いそこからどいて僕の思い出汚さないでええ。


と脅したところで泣いて懇願したところで、かの邪虫に意志が通じようか。
あれは大の苦手でございます。

思い返せば中学時代、ゲームやらエロ本やらの散乱する友人の部屋で、なぜか屋根が開きっぱなしの「ごきぶりホイホイ」に引っ掛かったことがありました。

べちゃっ、と違和感に視線を下げると「ごきぶりホイホイ」が足の下に敷かれてるわけでしょ。
その数センチ隣に、一緒にゴキブリが捕まってるわけでしょ。
しかもまだ生きてたから、触覚ういんういん動いてて「はあああぁぁあ!?」となるでしょ。
足振るでしょ。振り落とそうとするでしょ。でも自分もホイホイされてるわけだから取れないでしょ。
踏んだ面積が、あと数センチずれてたら……と考えると、寿命縮んでたかもしれないね。


しかしまあ、どれどれ、あの時のごきぶりと比べると……ふふ。
沖縄の奴と比べるとまあ、可愛いもんですよ、東京もんなんてさ。

「沖縄 ゴキブリ」で画像検索してごらんなさいな自己責任で。

方言でいうところの〝ヒーラー〟と言えば、そりゃあもう体はでかいわ、触覚長いわ、隙あらば飛ぶわで、殺虫剤でもあればいいのですが、ティッシュや丸めた新聞紙など当たらないしさ。

かつて室内犬のダックスフンドを小脇に抱えながら、殺虫剤を構えて台所で戦ったことがありましたが、醤油のペットボトルの天辺まで駆け登ったあれが、ぶわっさああぁっ! と羽を広げて飛翔。完全に敗北したことがありました。

飛ぶからね。
超、飛んで向かってくるからね。

あの攻撃力、あの機動力、そして他の追随を許さない圧倒的な存在感よ。
その脅威を敬意を以て例えさせていただけるなら、〝赤い彗星のシャア〟専用モビルスーツ中、僕の中では恐らく最強かと思われるあの真っ赤な機体……YES、〝サザビー〟!

ご存知でしょうか、サザビー。
ぜひ「サザビー 画像」で検索してごらんくださいこちらは自己責任じゃなくとも超かっくいーから!

ええ、強いです。
奴と戦うのなら、遺書を用意しておいた方がいい。


とまあつい長くなってしまいましたが、つまりそんなサザビーに比べたら東京のヒーラーなんて、旧ザクですよ旧ザク。もうね、ツノとか生えてないの。倒せる。

こんなちっちゃい奴、ティッシュにペペッと包んで、トイレにペペッと、ほーら簡単……と次の瞬間、足元に動く影!
そ、そんなバカな……あの一撃を避けていただと!?
一度殺されかけ、テンションMAXで床を這い回る旧ザク。
は、速いっ!?
恐いっ!

それから三、四分あまり、戦争は続いたのでした。
あのトイレは、人が戦うには狭すぎる。
かといってドアを引けば、旧ザクとの距離を必要以上に縮めてしまう恐れもあったし……。

たった一畳の戦いです。一畳戦争です。
長く……苦しい戦いでした。失ったものはあまりに大きい。
でも、でも勝ったんです。
なめてました、東京の旧ザク。あんたザクなんかじゃない。もう、グフくらい強い。何ならギャンでもいい。いい音色だろ?
頑張りました。汗だくです。
でもこれで、この星にも平和が訪れ――。


深夜でした。

連日の熱帯夜にうだれ、冷蔵庫の前でコーラ飲んでた時です。
ふと視界をよぎる黒い影。

あのスピード……間違いない。
息を整え、ゆっくりとコップを流し台に置きました。

「……今年の夏も、熱くなりそうだぜ……!!」

走り出した男の背中に、もう迷いはありませんでした。
そう、戦いはまだ、始まったばかりなのです。


~ Fin ~
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2 Comments

郁凪  

沖縄の生物は何故になんでも大きいのでしょうか…
宮古島にいたあやつも…蜘蛛ってやつも、デカくて、しかも至る所にいっぱいいて、泣きそうになりました。

2013/07/10 (Wed) 00:01 | REPLY |   

カミツキ  

そこに住む人々の心も大きいですよ。
遅刻しても怒らない!
自分も遅刻しているから!

2013/07/10 (Wed) 01:53 | REPLY |   

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