担当医の門倉です。

自分がブログを持っていたことを忘れていた。

さすがに嘘。それは大袈裟。覚えてはいた。覚えてはいたさ。
けどもう、連載も終わったし、告知することもないし、書くべきことはないしで……。

最近起きた出来事を思い返してみてもさ、強いて言えば、迷惑メール受信してましたってくらいで。
ってことで、迷惑メールの話。



 ――担当医の門倉です。

 メールは、そんな一言から始まりました。
 真木野詩織(35)という名の病弱な貴婦人に依頼され、担当医・門倉は僕へのメール作成を決断したと言います。

 門倉いわく。

 詩織さん(35)は重い病を患っており、すぐにでも入院の必要があると。
 なのに詩織さん(35)は、この僕に1000万を渡すまでは絶対に入院しないと意地を張っているらしい。
 詩織さん(35)を助けると思って、1000万受け取ってくれまいかと。
 ついては早急に下記のURLから連絡をください、と。

 門倉さんは幾度も僕にメールを送り、必死に懇願しておりました。


ん。無理ないかな、この設定。
誰だよ、詩織さん(35)て。全く面識ないもんね。
残念だが門倉。僕はそのメール、リアルタイムで受け取っていない。迷惑メールフォルダに溜まったメールを、そろそろ消そうかな、とざっと見渡しているとこなのだから。

迷惑メール業界もまた競争率激しいのか、受信者に開かせよう開かせようと様々なタイトルを付けるもので、「Fカップじゃダメですか?」とか、知らない誰かから「久しぶり!」とか。
「ゆうこです。」ってタイトルのメールは短期間で九件も来ていました。落ち着けゆうこ。

けどやっぱり、ネットで見かけるような、わくわくするタイトルは届いてない。
しょんぼりして全削除しようとしたその時、また、いました。

 ――担当医の門倉です。

 毎日何十通ものメールが、日を跨いで受信されていました。

「詩織さんの脈がどんどん弱くなってきています・・・」
「人一人の命がかかってるんですから、それはわかってください」
「貴方の一通のメールで詩織さんを救ってやってください・・・お願いします」


これはあれかな、実は僕が詩織さんの隠し子だったみたいな展開で、死ぬ前に遺産を渡しておきたい的パターンかな? と思ったら、

「私は2ヶ月程前に1000万を彼女から頂きました」

ああ門倉、君ももらってんのね。節操ないな、詩織さん(35)。

詩織さん(35)は、なぜか死ぬ前に1000万を30人に渡したいらしく、僕で丁度30人目らしいのです。
渡しきらないと、彼女の気が済まないんだそうです。
でもこの僕には、その怪しげなURLをクリックする勇気なんて、これっぽっちもないのです。

送られてきたメールの中で、詩織さん(35)は少しずつ弱っていきました。

「今まで無理をしていたせいもあってかなり体は衰弱し、体力も低下しています・・・」
「最期の気持ちを受け取ってあげてください。お願いします」
「門倉です!詩織さんが危険です!」
「今から30分以内、もしくは1時間・・・2時間以内・・・とにかく少しでも早く私と会って下さい」

「たった今私は車に乗り込みました。助手席には【一千万の入ったボストンバッグ】が置いてあります」


ふふ。門倉、焦ってる焦ってる。


「真木野詩織さんは重体の為に、病院に搬送されました。今意識不明の重体です」
「『失敗のほとんどは間違いではなく諦めにより訪れる』この言葉を私に言って詩織さんは意識不明の状態になりました」

「貴方に1000万を今日中に何としてでもお届けすると、それだけを繰り返し言っていました・・・」

諦めないなあ! 詩織さん(35)。
何ちょっといいこと言ってんのさ。
なんか僕が苦しめてるみたいになってるじゃないか。

そしてそのメールから、翌日の朝付けで受信されていたメールのタイトル。

 ――お亡くなりになりました。


え、うそ、死んだの?
それは意外な展開……。これからどうするんだ。

早速開いてみると、

「そう訃報を聞く前に受け取りたいとは思いませんか?(1000万を)」


恥を知れい門倉!
仮にも文章で勝負しているおまえさんが、そんな、安直な騙しわざで読者を出会い系に誘導しようなど、それこそ愚の骨頂!
失望したぞ門倉。情けないぞ門倉。
あとずっと気になってたけど、「・・・」は三点リーダ(…)をふたつ繋げてこう(……)した方がいいんじゃないのか?
いいのか? ああ、いいのか、メールだったわ。迷惑メールだったわ、これ。


かくして。

詩織さん(35)はやっぱりしぶとく生き続け、担当医・門倉は彼女の枕元でメールをしたため、そんな二人の想いは電波となって、今日もフィクションの街Tokyoの夜空を煌びやかに飛んでゆくのでした――。


最近の出来事が迷惑メールってどうよ。
久々に長文書いてしまったよ。
もっとちゃんとさ、物書きらしく、出版の裏話とか、製作秘話とか書いた方がよくない?

うーん。
関連記事

2 Comments

齊藤想  

この迷惑メールはなかなかナイスですね。
(迷惑であることにはかわりませんが)

ちょっと話のネタになりそうです。何かに使おうかな(笑)

2014/09/13 (Sat) 06:31 | EDIT | REPLY |   

カミツキ  

掌編のような掘り出し物がたまにありますね笑
夢中になってしまいました。

2014/09/13 (Sat) 09:17 | REPLY |   

Post a comment