Diary of Kamitsuki Rainy

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 足元にナズナが小さく芽吹いていた。小春さんは若草を踏まないように避けながら、錆びた鉄塔を一周する。


「うん。立派な鉄塔だわ」

「登らないんですか?」


 無神経な僕は、同じことを二度も、尋ねてしまう。


「登るわよ。そのために来たんだから」


 鉄塔の階段を塞ぐ鉄格子の扉、そのノブにかかった南京錠は古いせいか外れていて、それが、この鉄塔を僕が秘密基地と認めた最大の要因だった。
 この塔に登れることは僕だけの秘密だった。数分前までは、だけど。

 鉄格子に手を触れた僕を、小春さんは後ろから呼び止める。


「待って。賭けを、しましょう」


 その時の小春さんの様子は少しおかしくて、表情は強張り、少し震えているようにも見えた。深呼吸を何度か繰り返す。もしかして高所恐怖症なのかな、と心配した。


「私が先に登って、地面から君が見上げるの。私の姿が見えるかしら」

「ヘリに立てば多分……でも危ないですよ」

「私が今はいている下着の色を君が当てるの。もしも見事正解したら、私のファーストキッスをあげる」


 小春さんの突然の提案に、僕は言葉を失ってしまった。狐につままれているのではないかと、それくらいに驚いた。
 目を丸くする僕の側を、小春さんはふ、と抜けていった。
 石鹸の良い香りがした。


「な、待ってください」


 慌てて振り返る。彼女を行かせてはいけない気がした。えも言われぬ不安が、僕の心臓を締め付けた。


「ダメです。その賭けは不公平です。成り立ちません」

「どうして?」

「俺は……あの、その色をもう知っているから」


 階段の上部に立つ彼女がこちらを振り返り、その視線が僕に降り注がれると、僕は無意識に下を向いてしまった。

 彼女を行かせたくなかった。僕は、もしかしてとんでもないことの手伝いをしているのではないかという気がした。
 もしかして、小春さんは飛び降りようとしているのではないかと。


「知っているの? 何色?」


 透き通った小春さんの声を聞くと、心臓が一回り小さくなったように収縮した。苦しい。


「しっ……し──」

「はずれ」


 見上げた鼻先に小春さんの鼻がぶつかり、そのあまりの近さに、とうとう僕の心臓は止まってしまった。

 口の形を「し」にしたまま僕は固まり、踵を返した小春さんは階段を上がる。トントンと響く音でようやく心臓は動きだした。


「待って!」


 彼女はいつだって自由奔放で、僕はいつだって振り回されっぱなしだった。
 茜空に浮かぶ鉄塔を、トントンカンカンと二つの足音が足早に響いた。





→小春さんと風の強い日③へ
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